島根県産の猪肉の成分分析

この成分表は島根県しまねの味開発指導センタ―の
久家 美奈
研究員の許可を受け研究結果を引用しています。
詳しくはリンクページのしまねの味開発指導センタ―に研究結果が公表されています。

試験方法

(1)試験試料
      島根県浜田市管内で平成12年6〜8月(雄2頭、雌2頭)、平成13年7〜9月(雄2頭、雌2頭)に
   捕獲された推定年齢1.5〜2歳のイノシシ肉を用いた。また比較のため同管内で捕獲された
   冬場のイノシシ肉(雄、雌2頭)を用いた。各個体は解体後、部位ごとに採取したものを−30℃で保存した。

(2)成分分析 
   脂肪組織を取り除いた精肉(赤身肉)を挽き肉機で2度挽き後、五訂日本食品標準分析マニュアルに
   基づき一般成分分析を行った。また蓄積脂肪(脂身)の脂肪酸組成をガスクロマトグラフで、赤身肉の
   遊離アミノ酸組成については高速液体クロマトグラフで測定した。(機器分析:水産試験場利用化学科)

(3)脂身着割合
   部位ごとに目視で脂身と赤身肉の部分に分け、脂身付着割合を測定した。


イノシシ肉の一般成分(g/100g)

ロース モモ バラ
捕獲年月日 性別 水分 蛋白質 脂質 水分 蛋白質 脂質 水分 蛋白質 脂質
猪冬肉 H13.2 75.5 21.1 3.6 75.3 21.8 2.6 73.6 22.0 5.5
猪冬肉 H13.2 72.9 22.2 4.4 73.4 21.8 4.9 67.3 22.5 10.0
猪夏肉 H13.7 75.2 20.8 3.1 76.0 20.6 2.6 71.1 20.2 7.6
猪夏肉 H13.8 77.7 21.2 0.9 78.7 20.3 0.8 79.6 19.3 0.9
猪夏肉 H13.9 74.9 20.4 5.1 75.9 20.6 2.2 72.4 20.8 6.9
猪夏肉 H13.9 77.9 20.0 1.2 78.1 20.0 1.2 78.6 19.5 1.3
猪夏肉 H13.9 77.3 19.6 2.1 78.0 19.5 1.6 76.9 18.9 2.8
猪冬肉 H14.2 74.8 22.6 2.4 76.5 22.3 1.6 73.9 22.6 2.3
猪冬肉 H14.2 73.8 21.5 3.7 73.5 22.8 3.2 73.5 21.7 4.0
豚肉(精肉) (A) 不明 71.2 22.9 4.6 71.5 21.9 5.3 データなし
牛肉(精肉) (A) 不明 55.9 17.1 25.8 67.0 20.7 10.7 データなし
全体の傾向としては固体によるデータのバラつきはあるものの、赤身肉の一般成分に付いては
夏冬間で大きな違いは認められなかった。日本食品成分表記載の豚肉、牛肉の脂身のない
ロース及びモモと比較したところ、イノシシ肉は水分とタンパク質が高く脂身は低いという特性を示した。
(A) 参照文献 科学技術庁資源調査会編:日本食品成分表 181 東京書籍 (2001)

イノシシ肉脂身の脂肪酸組成(%)

猪夏肉 猪冬肉 豚肉(B) 牛肉(B)
脂肪酸名 慣用名 ロース バラ ロース バラ ロース ロース
C14:0 ミリスチン酸 0.8 0.8 1.2 1.2 1.4 3.3
C16:0 パルミチン酸 19.0 18.9 22.5 22.3 25.8 27.2
C16:1 パルミトレイン酸 1.8 1.8 2.4 2.3 2.7 7.9
C17:0 マルガリン酸 0.3 0.5 0.4 0.4 0.3 0.7
C18:0 ステアリン酸 25.0 20.8 21.7 22.4 15.1 9.1
C18:1 オレイン酸 31.6 36.1 36.4 36.0 40.9 45.2
C18:2 リノール酸 14.2 14.0 9.1 9.1 10.8 2.3
C18:3 リレイン酸 1.7 1.7 1.5 1.6 0.8 0.1
C20:1 イコセン酸 1.2 1.2 1.2 1.2 0.7 0.3
C20:2 イコサジエン酸 0.7 0.7 0.5 0.5 0.4 0.0
C20:3 イコサトリエン酸 0.5 0.5 0.4 0.4 0.1 0.0
C20:4 アラキドン酸 0.1 0.1 0.1 0.1 0.2 0.0
Others その他 3.2 3.0 2.6 2.5 0.8 3.8
飽和脂肪酸 45.1 41.0 45.8 46.3 42.6 40.3
モノエン酸 34.5 39.0 40.1 39.5 44.3 53.4
ポリエン酸 17.2 17.1 11.6 11.7 12.3 2.4
P/S ポリエン酸/飽和脂肪酸 0.38 0.42 0.25 0.25 0.29 0.06
P/S(ポリエン酸/飽和脂肪酸)
コレストロール血症を含む高脂質血症全般に対する食事療法の際の指標として
広く用いられるP/S比は1〜1.5の範囲が望ましいとされています。
(P/S) 参照文献 厚生省保健医療局健康増進栄養課:第五次改訂日本人の栄養所要量 21 第一出版 (1994)

アミノ酸と脂肪酸組成表(B)記載の豚肉・牛肉の脂身のないロース及びモモの脂肪酸組成と
比較した結果、イノシシ肉は豚肉とほぼ類似した値を示し、牛肉との比較では、パルミチン酸、
パルネトレイン酸が少なく、ステアリン酸、リノール酸が多い傾向が認められました。

(B) 参照文献 科学技術庁資源調査会編:アミノ酸&脂肪酸組成表 204 女子栄養大学出版部 (1993) 

主な遊離アミノ酸含有量(mg/100g)

猪夏肉 猪冬肉 豚肉 牛肉
アミノ酸名 ロース モモ バラ ロース モモ バラ (C)
Car カルノシン 881.6 630.0 635.5 983.5 776.4 591.7 642.1 432.3
Ans アンセリン 233.7 184.5 161.6 354.9 344.9 228.0 25.0 78.6
Tau タウリン 117.6 202.8 141.1 66.0 193.8 148.6 32.2 38.7
Asp アスパラギン酸 14.1 3.7 2.2 0.7 0.5 1.1 0.9 1.2
Glu グルタミン酸 13.4 23.5 13.9 22.4 18.6 31.4 3.5 6.0
Thr スレオニン 5.9 7.7 5.3 10.7 8.8 11.4 3.3 5.0
Ser セリン 9.0 11.8 7.3 15.9 11.2 16.8 2.9 6.8
Pro プロリン 2.4 2.9 2.2 3.6 3.0 3.6 3.5 3.9
Gly グリシン 20.0 25.0 21.6 23.6 20.6 25.6 8.9 10.4
Ala アラニン 52.2 65.4 62.0 51.7 79.1 72.1 18.1 32.0
Val バリン 6.6 7.8 5.5 10.1 7.4 9.3 4.7 5.7
Met メチオニン 1.1 1.1 2.2 11.0 12.1 12.3 1.3 2.8
Cys シスチン 1.0 0.9 0.0 2.8 1.6 1.2 0.2 0.7
I-Leu イソロイシン 3.5 3.7 2.4 8.7 7.4 7.4 3.0 4.3
Leu ロイシン 8.0 8.0 5.4 12.5 9.6 9.4 4.7 7.5
Tyr チロシン 12.4 11.8 10.4 15.2 13.4 14.1 2.7 4.2
His ヒスチジン 3.9 4.5 3.5 6.7 5.6 6.7 1.9 3.7
遊離アミノ酸組成をみると、夏冬肉、部位別に関係なくカルノシン、アンセリンが多くついでタウリンの順であった。
それらについては豚肉、牛肉との比較においてもかなり多い傾向が認められアラニン、グリシン、グルタミン酸、
チロシンなどの旨み成分が含まれていた。
またカルノシンはロースに、タウリンはモモに多い傾向が認められたことは肉質は豚肉と類似している。

(C) 参照文献  T.Nishimura, M.R.Rhue, A.Okitani, H.Kato : Agric.Biol.Chem.52, 2323  (1988)(豚肉と牛肉のデータ)